sparklers•down 〜真夏の札幌遠征②〜
前編①
north•heaven 〜真夏の札幌遠征①〜 - ありふれた話とその先のこと
「凄い荷物ですね」
「え?」
「荷物が凄い、家出するときですらそんな大荷物にならないですよ笑」
「ふふ、そうでしょ?笑」
「もしくは同棲してた男の家から逃げ出してきたとか?」
「男の家ではないけど、そんな感じかも笑」
「よく分からないけど、とりあえず手伝うわ」
背の小さい彼女は本当にとんでもない大荷物を抱えて通りを歩いていた。服装も顔も割と幼い感じだが、肩は落ちとても疲れてそうな表情。
平行トークで自分は関西から旅行で来ている一般人で勧誘とかじゃないと自己開示を済ませる。
「遊びたいのは分かるけど今日は本当に疲れてるから帰る」
彼女の足は止まらない。
“KPしてくらたら荷物家まで持ってあげる、オレとデートしたら元気になれるって評判、ちょっとした下心ぐらいしかないただのナンパだから逆に安全、とりあえずそこの自販機で水分補給してこ、ほら早くしないと割り勘になるで”
思いつく限りのトークと打診を続けるとようやく彼女の歩みがゆっくりになった。
すかさず彼女の荷物を半分持つ、謎に重い。ちょうどタイミング良く川沿いにベンチがあったので飲み物を買って二人座り込んだ。
彼女はメイドカフェ嬢として働いて、偶然今日が卒業の日。さっきまで店で同僚やお客さんと卒業パーティーをしていて、店に置いていた荷物や貰ったプレゼントを持って自宅まで帰るところだった。
「もうお客さんの面白くもない話に付き合うの疲れた、彼氏は何年もいないし、夏っぽいことも全然してない」
来週からは新しい仕事を始めるという彼女。そして出会ってしまったナンパ野郎。
「そんな荷物捨てたらええやん、どうせ持って帰っても使わんやろ?」
「え、捨てるのこれ?」
「そう、あそこのゴミ箱に全部捨ててしまえ笑」
「さすがにここに捨てるのはちょっと笑笑」
「古い物を捨てないと新しいものは入ってこれんやろ、俺と会ったのはちょうど良いきっかけやん」
「でも友達にもらったこの花火だけはしたい」
「いいよ一緒にここで花火しよう、その代わり俺ら今日はカップルな笑」
「展開早すぎるけど夏だしまあいいか笑」
さっきまで他人だった二人が川沿いで並んで花火。彼女は大袈裟なぐらいにはしゃいでいた。
最後の線香花火が終わり、花火の残骸だけじゃなく周りに落ちていたゴミも一緒に集める姿を見て、彼女に声を掛けて良かったと思った。
「オレの泊まってるホテルならゴミ処分サービスあるから行こ」
タクシーでホテルへ移動。久しぶりだから恥ずかしいと少しグダが出たけど、
"絶対後悔させないから"
と粘って即。
事後簡単な即報を上げるとはたちさんからLINE。
“ツイート見たよ、勝ったね!最後に会えなくて残念だったけどありがとうまたいつか”
自分達の環境で2日連続のGTは厳しいし、翌日は朝から予定があることを聞いていたのでもう帰宅したと思った。
よく考えたらこの二日間、二人で話した時間はそんなに無かった気がする。
この遠征のためにものすごく準備してくれて、色んな人にも引き合わせてくれた。
自分がまだ全然即れてなかった頃からずっと励ましてくれてた人。
もっと話そうと思っていたことが沢山あったのに。
“今日会えなくて泣きそうです、でも後悔はしてないです、絶対また会いましょう!”
遠征に来て地蔵トークしかできないヤツと思われたくなかったから、札幌では話している最中でも案件が来ればすぐに声を掛け続けた。
ナンパで繋がった関係って突然別れが来たりする。
実際、一緒に札幌に来るはずだった人は、ある日急に消息不明になってしまった。
でも会えてよかったです。
ありがとうございました。
“いやまだおるて笑、ミガーさんとGT”
えっ?
“クソ恥ずかしいので今の全部送信取り消していいっすか?wwwwwwww”
あんたホンマに大丈夫なんかいw
しかしあれは勘違いしますって笑
幸い彼女は本当に疲れていたみたいでもう寝息を立てている。
『ちょっとだけ友達のところに行ってくるからゆっくり寝てて』
ベッドの横にメモを書き置き、服を着てホテルを出た。
“抜け出していきます”
“無理しなくていいけどいつものところにいる”
“下向いて走ります!”
昨日まで全く知らなかった街を走った。そういえば自分はいい年して何でこんなに走ってるんだろう。
そこには何もないのかもしれない。
誇れることも、
愛することも、
自分は何もできないのに。
けれど邪魔なものも、
遮るものもここにはない。
ほとんど寝てないのに身体が軽く感じた。
いつもの場所、はたちさんが酒片手に笑っている。ミガーさんはダッシュを繰り返してるし、りょうまんと成田は酒瓶片手に目が完全にパキってるし、ダリさんと筋子さんはコンビで連れ出した後みたいで姿はなかった。
そこからは、地蔵トークしたり、色んな人とコンビしたり、適当に声掛けしたり。
気がつくとはたちさんもミガーさんも消えていた。Twitterを見ると皆んな即れそう。本当によかった。
"疲れたし満足したし今回はこれで十分かな"
と思った時、
"まだやれますよね?僕はその状況でやりましたよ笑笑"
(https://kazuyaura.hatenablog.com/entry/2020/08/18/194108)
花火ドヤりLINEを送り付けてしまったあるクラスタから↑みたいな趣旨の返信。会った事は無いけどナイフみたいな笑顔が思い浮かんだ。
激励と受け取って声掛けを再開。
しばらくして近くにいたりょうまんが、和んでいた高身長のOL子(ミセク)を自分へいきなりパスw
ありがたく受け取って、水が飲みたいと言うOL子を一旦コンビニ連れ。
さっきまで友達と飲んでいて終電を逃したイージー案件。とはいえ取りこぼさないようちゃんと和んでからラブホテルに搬送。
「貴方達どういう関係なの?笑」
最後まで怪しまれてたけど
「まあまあまあまあ笑」
で流して即。
ちょっと雑に扱ってしまったのに、なぜか食い付きが高いOL子は"後でランチデートするから一旦家に帰って着替えてきて"となだめてタクシーに乗せてた。
すっかり明るくなったすすきのの街で、その後も地蔵トークしながら適当に声掛け。
こんなのがいつまでも続けばいいなあなんて思ったけど、そろそろ自分のホテルに残してきた子が起きてもおかしくない時間になった。
最後に箱に行くというりょうまん達と別れ自分のホテルへ戻ると、幸い彼女はまだ寝息を立てていた。
しばらくして起き出した彼女がシャワーを浴びて身繕いを終えるまで、目を閉じて眠ったふりをしていた。
「ねえ、本当にいらないもの置いていってもいい?」
「大丈夫でしょ」
二人で荷物の仕分け。お客さんに振る舞ってたかき氷のシロップ、少しくたびれたメイド服。他にも色々出てきたけど、持っていた荷物はほとんどがゴミ袋行きになった。
「あー、スッキリした!」
背を伸ばした彼女は昨日よりも少しだけ大きく見えた。
「これだけ俺が貰うわ」
ロッカーの鍵につけていたカービィのキーホルダーだけは何となく貰うことにした。
「俺スープカレーだけはまだ食べてないからランチ一緒に食べよ?」
「今日だけカップルって言ったでしょ?もう明日になったよ笑」
ニュートンの運動第三の法則じゃないけど、彼女が前へ進むため最後に捨てたのはナンパ野郎だったみたい。
とても軽くなった荷物と彼女をタクシーに乗せて、窓越しにいつか彼女の夢のカフェをオープンしたら会いに行く約束をした。
「札幌楽しかった?」
「うん最高だった、ありがとな」
タクシーが小さく見えなくなるまで見送った。ほんの少しだけ未来を感じつつ、笑顔でお別れできるのがいいナンパのような気がしている。だからこのカービィは無くさないようにしよう。
すっかり陽は高く昇り、日常がすぐそこまで帰ってきていた。
部屋に戻り携帯を見ると二人目のOL子からLINE。
“二日酔いが酷くてやっぱりランチ行けそうにない、ごめんね”
昨日は二人に殺すって言われて、今日は抱いたはずの二人の女の子に振られて、楽しく騒がし過ぎた夏祭りも終わりを迎えた。
帰りの空港。
飛行機に乗り込み、窓から外を見ているとなぜか目が熱くなってきた。
疲れているからなのか、
出会いと別れからなのか、
それとも贖罪なのか、
理由は未だに分からない。
飛行機は滑走路を一気に加速し、空へ上がっていく。下には北の大地。上には青い空。
めいいっぱい走って、遊んで、戦った。
ここは綺麗事だけじゃないけど、運悪く来られなかった奴も、辞めていった奴らも、きっとその瞬間は楽しんでいただろう。
そしてまだ続けてる救いようのない奴らは、いつだって次はいつ飛べるかを考えてる。
当たり前の今日が、
明日もやってくるとは限らない。
線香花火のように、
いつか落ちてしまうのなら、
余分なものを捨てて、
せめてその瞬間だけは全力で。
また会おう。
また踊ろう。
自由に。
またストリート(ここ)で。
見てるか、まだ戦ってるぞ
最後に。
遠征の最初から最後までお世話になってはたちさん、一緒に遠征した皆さん、合流してくれたポロサツクラスタの皆さん(会えなかった方も含めて)、遠く離れた地からアドバイスしてくれた方達、本当にありがとうございました。
この年齢になるとどんなにお金を積んでもできない経験ができたと思っています。ほんと札幌最高!
どんな形であれここにはいつかまた来ます。
そして出会ってくれた北国の女の子達ありがとう。